近年、睡眠に対する関心が高まっており、『スタンフォード式 最高の睡眠』、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』などの本が世界中で出版されてはベストヒットを記録するという時代となっています。
日本では、無自覚の人も含めると睡眠障害を抱える人は全体の30%もいるそうです。
睡眠不足によって、日中の眠気、仕事のミス、健康の損失などなど、沢山の弊害を抱えて過ごすことになってしまいます。
そんな重大な睡眠不足を解決すべく、数ある書籍の中からとある一冊をご紹介します。
キーワードは「クロノタイプ」。
他の書籍とは違った観点から、快眠の世界へ足を踏み出してみませんか。
STEP① 概要
今回参考にさせて頂いたのはこちら。
産業医かつ精神科医であり、株式会社MEDICIO代表取締役として計16社のメンタルヘルスを担う医師、穂積桜先生の著書、『朝型 夜型 クロノタイプ別 睡眠レッスン』です。
産業医とは、企業と契約し、労働者の健康管理を行う医師のことを言います。
この産業医が直面する、労働者の身体や精神の症状の中でもとりわけ多いのが、睡眠に関するものです。
睡眠障害の中には、入眠困難、中途覚醒、起床困難、昼間の眠気など様々な要素が含まれますが、総じて多いものが不眠症や慢性睡眠不足です。
睡眠不足になると、ボーっとしたり、仕事でのミスが増えたり、妙にイライラしたり、落ち着かなくなったりします。
健康面で言えば、ホルモンバランスが崩れたり、自律神経機能が崩壊したり、免疫能が低下したり、食欲が増加することで血糖値が上がりやすくなったり、血圧が上がったり、認知症のリスクが上がったり、うつ病のリスクが上がったりといったことが起こってきます。
また、ビジネス業界では仕事を病欠することをアブセンティーイズム、体調不良により職務遂行能力が低下した状態のことをプレゼンティーイズム(疾病就業)と呼び、このプレゼンティーイズムにより全米で年1500億ドルもの損失が出ているそうです。
不眠の定義として以下のポイントが挙げられています。
- 入眠までに2時間以上かかる
- 夜間に目が覚める回数が2回以上
- 睡眠時間は確保できているはずなのに熟睡感が無い
- 起きたい時間の2時間以上前に目が覚める
STEP② クロノタイプとは
人間などの動物、植物、菌類などには元より「サーカディアンリズム(概日リズム)」というものがあり、時計が無くても、約24~25時間周期で体内で時を刻む独自のリズムを持っています。
一言で言うなら「体内時計」のことを指します。
サーカディアンリズムは近年とても注目されており、2017年には米ブランダイス大学のホール博士らが、体内時計を生み出す遺伝子とメカニズムを解明し、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
哺乳類では、視床下部の視交叉上核に、体内時計細胞があるとされています。
そしてこのサーカディアンリズムは、始まりの時間、終わりの時間、最も集中力があがる時間などが個人それぞれで大きく異なり、それによって身体的あるいは精神的なパフォーマンスが最も上がる時間が異なります。
こうして生まれてくるのが、良く聞く「朝方」「夜型」といった言葉です。
クロノタイプとは、この「朝方」「夜型」と、もうひとつ「中間型」を合わせた3つのタイプのことを言い、こちらもサーカディアンリズムに従った概念です。
この「朝方」「夜型」「中間型」を理解し、自分のタイプがどれであるかをきちんと把握することで、体内時計の時間進行に沿った時間帯に睡眠をとることができ、より良い睡眠習慣が身につくというのが著者の主張です。
STEP③ クロノタイプの見つけ方
日本人では、朝型が約22~28%、夜型が23~31%、中間型が41%の割合で存在しているそうです(2010年の研究)。
中間型は、自己管理次第で朝型と夜型のどちらにもなり得るタイプのことであり、夜中に光を浴びるような生活を続けていると、その人は夜型寄りの中間型となります。
自分がどのクロノタイプに当てはまるのかを判定する方法がこの本人はいくつか書かれています。
1.判定シート
計19個の質問に答え、その結果でクロノタイプを判別する「判定シート」がこの本には付属しています。
詳細は冗長となってしまい、著作権的にも怪しいので転載はできませんが、質問の中には、「夜、何時になると眠くなりますか?」や「体調が最高になる生活リズムを考えた時、あなたは何時に起きるのがベストですか?」といった質問が書かれています。
2.1日の中でパフォーマンスが上がる時間を意識してみる
朝方は午後9~11時に就寝して、午前4~6時に目が覚め、午前中にパフォーマンスが最高となります。
夜型は深夜1~3時に就寝して、午前8~10時に目が覚め、午後6~10時にパフォーマンスが最高となります。
アスリートを対象とした研究では、朝方は午後1~4時、夜型は午後7時~10時、中間型は午後4時~7時にパフォーマンスが最高となるという報告があります。
判定シートの質問の中にも、「1日のどの時間帯に体調が最高であると感じますか?」「2時間のきつい労働をする時、体調が最高になる生活リズムを意識すると何時を労働の時間に選びますか」といった質問があるように、身体的にも精神的にも1日の中で最もベストパフォーマンスができる時間帯を意識してみることで、ある程度は簡単に判別できます。
3.クロノタイプ別性格診断
血液型性格診断とは異なり、クロノタイプは性格と関係がある(因果は不明)という研究が多くあるようです。
- 朝方の性格は、内向的、勤勉、粘り強い、朗らか、学校の成績が良い、女性に多い、など。
- 夜型の性格は、外交的、好奇心旺盛、柔軟な思考、落ち込みやすい、怠さや眠気を感じやすい、太りやすい、男性に多い、など。
これにより自分がどんな性格なのかという視点から、クロノタイプをざっくりと判別できます。
STEP④ クロノタイプを意識した働き方・生き方
簡単に言えば、クロノタイプに沿った睡眠時間を確保でき、前述のパフォーマンスが最高となる時間帯に就業できるような生活スタイルを実践する。
その上でクロノタイプに合った仕事に就けばいいのです。
経営者の場合は、労働者の健康経営が改善することで、結果的に業績も向上することが叶うため、フレックスタイムや在宅勤務、ダブルワークの導入などによってクロノタイプに沿った働き方ができるような職場環境の構築を図るのも良いかもしれません。
ですが、言うは易し、行うは難し。
急にライフスタイルを変えることは難しいです。
そんな時は、クロノタイプをずらす工夫をしてみると良いかもしれません。
クロノタイプは、50%が遺伝で決定され、残りは年齢や性別、日光へ当たる時間やその強さなどの外的要因によって決まるとのことです。
例えば、午前中に自然光を浴びることが多い生活を続けていると朝方にシフトしやすくなるし、加齢に伴って朝方になっていく傾向があるようです。
人間には「メラトニン」というホルモンがあり、脳の松果体という部分から分泌され、サーカディアンリズムに働きかけます。
メラトニンは眠気を誘発する、いわば睡眠誘発ホルモンです。
このホルモンは太陽の光を浴びてから14~16時間後に分泌が開始されると言われており、この光を浴びる時間帯をコントロールすることで、眠りにつきやすくなる時間をある程度コントロールすることもできます。
まとめると、クロノタイプは努力である程度変えられる(ずらせる)ということなので、自分の現在の生活スタイルや就業時間に合ったクロノタイプに少しずつ変えていく努力をすると良いかもしれません。
STEP⑤ より良い睡眠のための豆知識
最期に、一般的に睡眠不足を改善するための生活の工夫についていくつがご紹介します。
- 最も長生きできる睡眠時間は7時間。
- 昼寝の時間帯に眠くなるのは「ポスト・ランチ・ディップ」といって正常でも起こり得る生理現象。この時に20分程度の仮眠をとっても眠気が持続する場合は睡眠不足が考えられる。
- 脳温度が一度上がってから下がっていく過程で眠りにつきやすくなるため、お風呂は就寝時間の1~2時間前に入るのがベスト。足をお湯に入れて温めるだけでも効果があるそう。
- 寝室は湿度が大切で、湿度50%、室温26℃程度が良い。
- 運動は就寝時刻の6時間前までに済ます。
- 認知行動療法が有効(ネットで調べてみると良いです)。
- カフェインは寝る6時間前以降は飲まない。起床後は起床時間の90分後に摂取するのがベスト。
- 禁煙を徹底することが大切。
注意点ですが、睡眠に関する研究は、対象としている人々における人種・年齢・性別・仕事・抱えるストレスなどの個人差が大きいため、研究結果の違いを生みやすく様々な説や情報が世の中に溢れかえっています。
大切なことは、それらすべてを鵜呑みにするのではなく、自分自身に合った睡眠習慣を獲得することであり、その日の眠気はどうかなど、自分の身体と相談しながら、自分自身で睡眠習慣を研究していく姿勢が必要です。
また、睡眠時無呼吸症候群などの重篤な疾患由来の睡眠不足が考えられる場合もあるため、解決に乏しい場合は近所の睡眠クリニックや内科に受診することをオススメします。