延期になること半年以上。
来るべき2021年7月18日。
奇しくも東京オリンピックの1週間前という、コロナ騒動真っ只中の首都・東京に赴き、感染リスクにハラハラドキドキしながらの受験。
往復の新幹線はガラガラに空きすぎていて貸し切りの様相。
超快適な陸路であったことは間違いないものの、このご時世ではとんぼ返り以外の選択肢は無く、東京滞在時間よりも新幹線の中にいた時間の方が長かったという今回の旅。
そう、私は今回、ようやく開催された3学会合同呼吸療法士認定試験を受けてきました。
次回の試験のご参考になればと、その様子を少しご紹介します。
ちなみに、大手の学会主催の試験のため、会場内はとても厳格な規制が敷かれており、写真が全く撮れませんでした。
文章のみになってしまいますが、ご容赦下さい。
概要
医療職業界では比較的メジャーな資格の1つに、「3学会合同呼吸療法認定士」があります。
その名の通り、呼吸器系にまつわる知識を身につけるための資格です。
アメリカなどの外国では、呼吸療法士(Resriratory Therapist)として、人工呼吸器の設定の変更や呼吸機能検査などを担う専門職として、その地位が確立されていますが、
日本でこの資格を取得したとしても、医療制度の面からは実はそんなにメリットはありません。
しかしながら、自身のスキルアップはもちろんのこと、知識を職場に還元することで組織全体のレベルアップが図れたり、RSTチームが発足された際に重宝されたりすることは言うまでもありません。
あとは、履歴書に記載できるため、転職や再就職などでも有利になるのではないでしょうか。
理学療法士や臨床工学技士などの国家資格を取得した後、次に取得することを目標とされている方も多い印象です。
毎年11月付近で認定試験が開かれています。
1996年に第1回が開催され、その後2019年に第24回の認定試験が執り行われました。
2020年は世界的なCOVID-19の流行によって延期となり、翌2020年7月に第25回認定試験が開催されることとなりました。
全国における延べ合格者数はこれまでで53396人。
合格率は60%台という難易度は若干高めの資格とはなっています。
受験資格は
- 臨床工学技士や理学療法士などの免許を有しており、その実務経験が2~3年以上
- 認定試験を主催する委員会が定める学会や講習会への参加をし、出席することで得られる点数を12.5点以上取得している
という2点を満たす必要があります。
申し込みはホームページからダウンロードした書式に必要事項を記載した後に、身分証明や国家資格免許の写しなどと一緒に郵送にて行います。
私が受験した第25回までの申し込みは、郵送を行った先着順(郵便局のハンコが押されたのが早い順)に受験資格が確定するという早い者勝ち制度でしたが、
毎年郵便局の前に長蛇の列ができるという問題提起があり、それに加えて昨今の感染予防の面からも、第26回より抽選方式に変更されたようです。
以上、ここまでの過程を経ても、まだ受験は(仮)確定です。
例年だと8月ごろに『認定講習会』という缶詰状態で知識を叩き込む講習会が開催されます。
これに出席することで、ようやく受験資格が確定されたことになります。
また認定講習会と時期を同じくして、夏ごろに『公式テキスト』と呼ばれる教科書のようなものが届きます。
試験問題のほとんどはこのテキストの中から出題されるため、ここから長きにわたる受験勉強が始まります。
受験方式の例年との違い
まず、前述した『認定講習会』は、会場に赴くのではなく、オンライン上でのe-Learningでの開催となりました。
全国的に、学会のオンライン化に伴って教育講演などはオンデマンド配信を行うことが流行りになってきていますが、それと似たスタイルで、
視聴期限が設定されており、その期日までに全てのオンライン講習会を視聴することで『認定講習会』を受講したことになるという制度が採られていました。
ここもかなりしっかりしていて、Web上で視聴時間をカウントしていたようで、デバイス上で早送りなどをすると、視聴完了にならないようになっていました。
7月の第1週目あたりに、受験票が届きました。
来るべき試験日は2021年7月18日でした。
例年だと、試験は午前午後の2パートで行われ、それぞれ70問ずつの計140問を回答する方式をとっていましたが、
今年は完全予防の観点からも、午後のみで100問というように改訂がなされました。
試験当日の予定としては、
- 11時開場
- 12時30分にオリエンテーション開始
- 13時試験開始
というスケジュールでした。
午後のみとなったため、場所によっては日帰りで受験可能な地域も多かったことと思われます。
会場は渋谷や汐留、高田馬場など何か所かありましたが、私は汐留での受験でした。
新幹線のハブ駅である東京駅から1~2駅なのでアクセスはとても良かったです。
比較的休日の人が少ない場所でもあったので、結果として感染対策面としても良かったのではないかと思います。
しかし渋谷会場もあったので、会場に関しては運次第となっています。
試験会場の様子
会場到着後、一方通行で席まで案内され、会場内での移動はかなりスムーズでした。
ワンフロアに300人程度着席し、隣との間隔は見事に2m以上空いていました。
私もこれまでに『心電図検定』や『福祉住環境コーディネーター』などその他もろもろの資格を取得してきましたが、やはり学会主導のため、物々しいというか、想像以上に厳格な雰囲気でした。
スマホなどの電子機器は紙の封筒に入れて管理したり、トイレには必ず付き添いが付いたりなど基本的なところはもちろん、電子機器の音が鳴ったら即失格など、厳しめに再三注意喚起がなされました。
ちょっとプチ事件として、スマートウォッチの電源の切り方が分からない、という人がいて、そのことで試験開始2分前くらいにアナウンスと急遽運営の方が回収して回るという事態がありました。
普段からスマートウォッチを使用している方は、電源の切り方などをあらかじめ確認しておくと安心です。
また、試験で机の上に出して良いのはアナログ式の時計のみですので、その点も注意が必要です。
カンニングなどする方はもちろんいないと思いますが、列ごとにマークシートの並びが横向きと縦向きで異なっていて、ひと目でカンニングできないようになっているなど細かい部分の配慮も素晴らしかったです。
きちんと試験に集中できる環境管理がなされていました。この点は運営の方々に感謝です。
しかし一点だけ、会場内がとんでもなく寒かったです。
半袖+長ズボン+サンダルで行きましたが、途中寒すぎて乾布摩擦するほどでした。
男性の自分がそうだったので、女性は特に、体温調節できる上着などを持参していくことは必須事項だと思います。
途中トイレに立つ方は周りで何人もいたので、トイレに関しては遠慮なく行って良いと思われます。
第25回認定試験内容
試験自体は、例年と比較するとかなり難しい部類に入るのではないでしょうか。
過去問からの出題がほとんどなく、新規問題自体も基本的な知識を熟知した上でそれをどのように活用するのかといった観点の問題が多かったように感じます。
例えば、人工呼吸器の流量波形を見せて、これは何のトラブルが起きているか?というような単純な質問ではなく、
auto-PEEPが生じているのを理解している前提で、ではこの波形ではどのように対処するのが良いか?という質問で、呼気時間を長くする、という答えを回答させるなどの問題がありました。
このような感じで、基礎知識の確認というよりは、それを踏まえた上での応用的な問題が比較的多かった印象です。
覚えている範囲では、他にも以下のようなものがありました。
- COPDの介護保険適応は何歳から?
- SOFAスコアの肝機能指標は何?
- 肺サーファクタントの主成分は何?(過去問にあるリン脂質・中性脂質・蛋白質ではなく、ホスファチジル・コレステロール・アポ蛋白を答えさせるもの)
- 補正DLは低下し、DL/VAが上昇する病態はどれか?(この部分は公式テキストでは解説が難解だったため、深く読まずにいた方が多かったのはないでしょうか)
- 症例問題は、症状から診断・治療方針の選択をさせるものが3~5問程度出た気がします。正直、呼吸器科の医師でないと答えられないようなものでした。
- 計算問題は1問だけ
- 歴史問題も1問だけ(Jet呼吸法、カフ付きチューブ、ゴム製カフ付きチューブほか2つの事象を年別に並べた最初期のものを選択させる)
- X線写真を見て病態を答えさせる問題も1問(気胸なんてベリーイージーなものではなく、右肺野の透過性が著しく低下したもの)
- 人口呼吸器の波形問題は、auto-PEEPの他にモードを選択させるものがあり(ちなみに今回は問題的にPCV-CMVとSIMVで迷わせるタイプのものでした)
- コロナ関係の問題はほとんど無し。1問だけ、結核の検査にPCR検査が使用できるか?という問題はありました。
総じて
「過去問だけ勉強していたとしたらかなり難しかった」という声を試験の後でよく聞くことがありますが、
今回ばかりは公式テキストを隅から隅まで丸暗記するくらいの勢いでないと太刀打ちできないくらいの難易度であったと感じます。
合格率は操作できるので、おそらく5~6割を超えてくるように設定されると思われます。
そのため合格点数はある程度引き下げられるかと思いますが、今回は苦渋を飲む方が多いのではないでしょうか(私もその一人である可能性が高いです)。
認定試験自体のスタンスが、「呼吸療法への入口」から、「即戦力として臨床応用できる知識を持った者の選別」へとコンバートしているのかしれません。
ニュースなどでも人工呼吸器やECMOが取り沙汰されるようになり、呼吸療法への世間の関心は高くなっています。
日本と世界との呼吸療法レベルの格差を埋めるためにも、臨床レベルの底上げは必須であり、必然的に認定資格の取得の難易度も上がってくる時期はいずれくるものだったのでしょう。
資格の取得自体が難しくなることで、反対にその資格のブランド力は高まりますので、今よりももっと『呼吸療法認定士』を持っていることを誇れるようになるのでしょう。
とりあえず、次回の試験の傾向次第で、今後の流れが変わってくるとは思います。
受験を控えている方は、過去問だけではなくて、公式テキストはもちろん、一般的な時事などにも目を向けて勉強していきましょう。
人工呼吸器の勉強で悩んでいるあなたへ。この本から学ぶのがオススメです。
【人工呼吸器の勉強の第一歩に最適な1冊】 Dr.田中竜馬の病態で考える人工呼吸管理
過去問も一度はやっておくと自信はつくかと思います。
通称『青本』はこちらから。
http://touginin.client.jp/resp.html
2021/8/26 追記(合格できました!)
先日合格通知が届きました。
今後、第26回を受験される方が、1人でも多く合格できるように祈っております。