『無気肺』とは、何らかの原因によって、肺胞組織の一部または肺組織全体が虚脱(風船がしぼんで潰れるイメージ)し、肺胞の中の空気が減少することで、有効な換気・酸素化に関与できなくなる病態のことを指します。
英語で「atelectasis(アテレクテーシスあるいはアテレクトーシス)」といい、ベテラン看護師さんなんかは、臨床ではこの頭をとって「アテレク」と言ったりします。
◆原因とその分類
複数の要因が重なることで引き起こされていることが多いです。
ここで示すのは、正式な分類ではなく、私の個人的な臨床見解も含めたものですので、参考までにご覧ください。
いくつか原因があるため、一つずつ見ていきましょう。
①閉塞性
気管支が狭窄または閉塞することで起こります。
肺門部のがんなど原発性の肺がん、痰の貯留、窒息などによる気道の内部に発生した異物の存在などが当てはまります。
急速に発症すると、肺胞低換気から低酸素血症、呼吸困難などを引き起こします。
②圧迫性
今度は肺組織そのものにおける疾患により、末梢気道が潰されてしまうものです。
肺腫瘍、肺膿瘍などです。
③受動性
肺組織そのものの疾患以外の原因により、末梢気道が潰れてしまうことで起こります。
胸水、気胸、心肥大(特に左下葉)、縦郭腫瘍などです。
④粘着性
肺胞表面に存在する表面活性物質(サーファクタント)の機能低下あるいは絶対量低下により肺胞が虚脱してしまうことで起こります。
代表的なものはARDS、肺水腫などがそうです。
⑤術後無気肺
術後に起きる無気肺の総称です。これは上記①~④の複数の要因が相互的に影響している部分もありますが、手術自体による影響で無気肺を形成しやすいと言われています。
麻酔による呼吸抑制に加え、人工呼吸器による横隔膜運動の低下から、特に背側の肺胞の虚脱が起きやすく、術中の同一姿勢の保持により下側になる肺の圧迫や痰の貯留などが原因とされています。ここからも分かるように、無気肺は背側の下葉など(下側肺といいます)で起こることが多いです。
胸部あるいは腹部外科術後に起こることが多い印象です。
⑥肥満
臥位になると、脂肪組織による重量が通常の人よりも肺にかかることで、肺胞が潰れやすくなります。
⑦吸収性無気肺
通常、吸気で取り込んだ空気には21%程度の酸素が含まれているのみであり、肺胞において、血液への酸素の拡散が行われても、肺胞の中に窒素を主とした気体が残存していることで、肺胞の虚脱が防がれていますが、
高濃度の酸素投与を行うと、吸入する空気における窒素の割合がほとんどゼロになってしまうことで、肺胞におけるガス交換で酸素が全て血液に拡散されてしまうと、肺胞内に空気が無くなってしまい肺胞が虚脱してしまいます。これを吸収性無気肺といいます。
◆対策
一言で無気肺といっても、様々な原因があるため、何が原因となって無気肺が起きているのか、というところまで評価し、適切な対応ができるようにしましょう。