まず運動と聞いて最初に思いつくのは、瘦せるとか健康といったイメージかと思います。
しかし運動療法は、医学はもちろんのこと、心理学、精神科学、教育学、疼痛の領域など様々な分野で有用性が示されてきています。
リハビリの分野では、患者さんやクライアントに運動を行ってもらう際には、『運動処方』といって、医師や薬剤師が渡す処方箋のように、どんな運動を治療として行えばよいかを伝え、実行してもらいます。
つまり運動方法を処方します。
この時に考慮するのが「FITT(フィット)」というものです。
FITTとは、Frequency(頻度)・Intensity(強度)・Time(時間)・Type(種類)の4つの要素の頭文字を取ったものです。
つまり、どれくらいの頻度で、どのくらいの強さで、どのくらいの時間をかけて、どんな運動をすれば良いのかということを患者さんやクライアントに伝え、それを実行してもらいます。
心血管疾患や糖尿病の既往のある方に対し、それぞれの学会がガイドラインにおいて、安全かつ効果的であると推奨する運動処方があります。
そしてアスリートなどを除けば、効果的である以前に、安全を第一として運動をすることが重要となります。
まず前提として、ヒトは運動する際にその強度が強くなるにつれて、取り込む酸素と排出する二酸化炭素のバランスが少しずつ変化していきます。
そして運動強度が一定以上となると、ある時点を境にこのバランスが一気に崩れ、二酸化炭素排出の増加幅が急増する時があります。
そのポイントを「無酸素性作業閾値(Anearobic Threshould:AT)」といって、これは簡単に言うならば、体が無理をし始める時点ということを表します。
また、この時点を境に身体が酸性に傾き始めます。
運動の「強度」に関しては、この無酸素性作業閾値(AT)以下の強さで運動することで、身体に無理をさせることなく効果的な運動を行うことができます。
また、効果的に運動をするのであれば最大酸素摂取量の40~60%程度、つまり中等度以上の運動を行うことが推奨されています。
とは言っても難しいので、目安としては、「楽だな」から「ちょっときついな」くらいのきつさで歩いたり走ったりするか、多少息が弾むくらいで息切れがしない程度のきつさで運動するのが良いでしょう。
脈拍から計算する方法もあります。
Karvonen法といって、220から年齢を引いた数を予測最大心拍数とし、目標とする最大心拍数を
目標最大心拍数={(220-年齢)-安静時心拍数}×40~60%+安静時心拍数}
で求めます。
このくらいの強さで、「時間」は1日30分以上、「頻度」は週に3回以上、「種類」は有酸素運動をすると良いとされています。
近年、ウェアラブルのヘルス機器として、Apple Watchやガーミンなどのスマートウォッチを身に着けて、ナイキランクラブのアプリを起動しながら走り回る人が増えたんじゃないでしょうか。
歩いたり、走ったりすることで感じる気持ちよさや心地よさのことをランナーズ・ハイと呼んだりします。
誰しも走って気持ちいいとか、リフレッシュできた、とか実感したことがあると思いますが、この正体はまだ完全には解明されていません。
有力な説には、周期的な有酸素運動によって、脳の下垂体から分泌されるβエンドルフィンという快楽ホルモンがこの気持ちよさをもたらしているとされています。
しかし私は最近、この現象は、遺伝子が洗練されていっている感覚なのではないか、と考えることがあります。
前述したように、様々な分野での運動療法の有効性が研究されるようになっており、走る歩くなどの有酸素運動によって、精神面は安定しやすくなり、記憶や学習効率も上がり、疾病に強くなり、いわば身体・精神・社会的に健康的な体を手にすることができます。
細胞もとい遺伝子が、より強くたくましくなることを喜び、雄叫びをあげているのです。
このご時世で淘汰されないための遺伝子づくりの第一歩はとても簡単、歩くまたは走るだけでいいのです。
そんなことを考えながら、今日もせっせと走るのです。