永久歯が生え揃った後、10代後半から20代前半で、数ある永久歯たちの最後方から満を持して生えてくると言われている親知らず。
その由来は物事の分別がつくようになり、今までは全ての面倒をみてくれていた親が知らない内に生え揃うことからきているようです。
正式名称を「智歯(ちし)」または「第三大臼歯」と言います。
この親知らずが意外と厄介者で、現代人のアゴの小型化により、親知らずが生えるスペースが無くなり、その隣にある奥歯を前歯の方に押すような形で生えてくることで痛みが出たりして、歯科医に受診する方が多いようです。
そんな私も親知らずが生え始め、痛みがあるので受診したところ、驚愕の事実が判明したのでご紹介します。
歯医者さん「あなた、親知らず5本ありますよ。」
痛みの出現
私の場合、大学3年生くらい、年齢で言うと21歳の終わり頃で、左右上下の4カ所がほぼ同時に生えてきました。
最初は何ともなかったですが、徐々に痛みが出てきたのは左右の下の歯でした。
ズキンズキンといった痛みではなく、違和感の延長線上にあるような鈍くて重い痛みが常にあるような感じでした。
それほど生活に支障も出ないし、まだいいかまだいいかと何か月も放置。
鏡を見ると、奥歯の奥にちょっこっと顔を出す親知らず。
何度かその歯茎の根元が腫れたりすることもありました。
ようやく時間が空いて歯医者に行ってみるか、と思い立った頃にはもう24歳になっていました。
痛みはもう慢性化しているので麻痺しており、腫れたりもしていましたが特に気にすることもありませんでした。
ただ、親知らずの内側にある奥歯が、前歯に向かって押されることで徐々に隣の歯との重なりが増え、心なしか歯並びも悪くなってきている気がしていました。
歯が押され続けて、いずれEXILEのチューチュートレインみたいに歯が一直線になるのは嫌だったので、そこで受診を決意したというのも大きいです。
衝撃の事実が発覚、、、
歯科医に赴き、症状を伝え、レントゲンを撮り、いざ診察。
まず痛みが強かった下の歯は、左の親知らずは真っすぐ生えているものの、右は横向きに生えているので隣の歯をガッツリ押しているとのこと。
これを埋まっているということで「埋伏歯(まいふくし)」というそうです。
また、歯茎が腫れていたのは、横向きに生えている歯の下の歯茎の部分に、細菌が溜まりやすい部分が自然とできてしまい、そこが炎症を起こすことで歯茎が腫れていたとのことでした。
ちょっとした手術みたいな処置になってしまいますが、埋伏
ところが上の親知らずが大問題。
右の親知らずに至っては、今顔を出している親知らずの奥にもう1本親知らずがあるとのこと。
つまり親知らずが5本あるということ。
これは「過剰歯」といって、正常では32本あるはずの歯が、30~40人に1人は多く生えてくることがあるようです。
ですが、「親知らず」つまり「智歯」の部分に過剰歯がみられるケースは珍しいらしく、大ベテラン50代の歯医者の先生も今までに数えるほどしか見たことがないとのこと。
過剰に生えている埋伏歯なのでそのまま「埋伏過剰歯」という診断。
しかも私の場合は、鼻の骨(正確には上顎骨の鼻腔に近いところ)にかなり近接して存在しているため、簡単な切開では除去できませんと言われました。
今顔を出している親知らずは隣の歯を押していたため、それは抜歯した方が良いと言われる一方、その奥にある埋伏過剰歯は抜かなくてもいいとのこと。
加えて、埋伏過剰歯である5本目の親知らずを抜くには全身麻酔による完璧な手術が必要とのことでした。
5本目は抜かなくても良いですが、今後どういう生え方をするか分からないとのことで、私に提示された方向性は2つ。
- 顔を出している親知らずだけ抜いて、埋まってる5本目はそのまま(外来)
- 全身麻酔の手術で5本目を抜いちゃう(日帰り入院)
モヤモヤしながら生活するのも嫌なので、2の全身麻酔で5本目を抜いちゃうことに決定。
そして、どうせ全身麻酔でやるならと5本全ての親知らずを手術の間に抜いてしまう方針に。
家族を含め、親知らず経験者の人生の先輩方の話しを聞く限りでは、1本抜いただけでご飯が食べられないくらい腫れたとか、もう二度と抜歯したくないくらいきつかったとか、そういう話ばかり。
そういう話には耳を塞いで、手術の書類にサイン、全身麻酔なのである程度のリスクは伴うため麻酔科の先生の説明を聞いたり、もろもろ準備は着々と進行していきました。
私が先生方にお願いしたことはただ1つ。
「バルーンカテーテル(おしっこの管)だけは入れない方向でお願いします。」
手術、患者側の気持ちをよーく理解できた
オペ着に着替えていざ手術室へ。
手術台に寝たら、早々に左手に麻酔の注射をされました。
その途端になんとも言えない気持ちよさというか幸福感に包まれ、あっという間に意識は消失。
手術の麻酔の気持ちよさが忘れられなくて中毒になってしまう人もいると聞いたことがありますが、その気持ちがよく分かるほど。
手術をする人の気持ちが今回の件で良く分かったのと同時に、薬物中毒者の気持ちも少し理解できたような気がしました。
眠ったと思ったら、夢の中で自分の声を呼ばれる気がして、気が付いたら病室のベッドで覚醒。
訳も分からなくなるくらい本当に一瞬でした。
皮肉なことに、おそらく人生の中で一番よく熟睡できた睡眠だったと思います。
そして覚醒してから、何が起きたのか、何をしていたのかを理解するのに数秒かかります。
自分もリハビリ職とはいえICUなどで術後のせん妄の患者さんを見て、色々と考えることがありますが、今回自分自身が全身麻酔を経験したことで、器質的・機能的な部分や科学的に言われているメカニズムは他として、せん妄になってしまう仕方なさも少し理解できたような気がします。
麻酔で意識が落ちてから覚醒するまでの時間は患者の体感時間としてはほんの数秒です。
これほどまでに一瞬の出来事だと、混乱するのは当たり前です。
しかもとっても気持ち良い睡眠を間に挟んで。
例えばこれがもし、緊急の大動脈解離だったりとか、手術が多少難渋して人工呼吸器をつけたまま覚醒したりだったりすれば、余計に状況が分からなくなって混乱し、せん妄というように捉えられてしまいます。
一瞬で自分の身の回りの状況が一変すると、本当に状況を理解することに時間がかかります。
こんなことを言うと麻酔科の先生に怒られるかもしれませんが、医療職も一度は全身麻酔を経験してみると良いかもしれませんね。
全身麻酔や手術に関する他のことで今でも憶えているのは以下の点です。
- 術後は経口気管挿管の影響で喉が2週間近く痛かった。
- 口腔からの出血が鼻腔に流れ込んだためか、鼻から大量の血の塊となった鼻くそが出てきた。
- 補液が大量なのでトイレに行きたくてしょうがない。
- トイレに歩こうとすると予想以上に看護師が慌てる。
- 最初に歩く時(初回離床)は健康体であってもやっぱりちょっとふらふらする。
地獄の日々が1ヶ月
日帰り入院だったので、補液が終了したらそそくさと家に帰ってきました。
奥歯でものを噛めないので、お腹が空いても食べれるのはゼリーやカステラばかり。
こういう時に限ってラーメンや肉が食べたくなるのが不思議なところ。
右だけとか左だけの抜歯なら反対側でご飯を食べれますが、なんせ4本と言わず5本全ていってしまっている訳ですから。
顔はアンパンマンみたいに腫れあがり、コロナ文化の先駆者とも言わんばかりにマスク着用での生活を強いられました。
1週間後に抜歯があったのでそれまではそんな生活が続き、抜歯を終え、2週間くらいを過ぎると顔の腫れもおさまり、普通のご飯も食べられるようになりました。
ここで悩んだのが、抜歯した箇所が大きな穴になっていたため、そこにご飯粒がスポット入り込むこと。
少しずつ歯肉で埋まってくるよ、と歯医者さんは言っていましたが、ご飯粒が入り込むのが完全に気にならなくなるのは1~2ヶ月経ったころでした。
また、私の場合は鼻の骨に近接して5本目の親知らずがあったので、鼻の骨の近いところ、というか鼻の骨の一部にも空洞ができ、骨折しないようにしばらくの間はティッシュで鼻をかんだり、くしゃみをしないように注意するように指導がありました。
くしゃみなんか急に出たくなるので、地味にこれが大変でした。
また抜歯全般に言えることですが、歯科処置によって菌が血中に入り込み、一過性の菌血症という疾患を発症していることが知られています。
これが重症化すると、恐ろしい感染性心内膜炎という心臓の炎症につながり、将来的に心臓弁膜症のリスクになったりするため、指定された抗生物質の内服は絶対に忘れないようにしていました。
もし抜歯する予定の方は、絶対に薬を飲み忘れないようにしましょう。
こうして予期せず手術まで行うことになってしまいましたが、全身麻酔やせん妄、離床時の患者の気持ちを少しは理解することができ、しかも「親知らずが5本」というパワーワードから掴みはバッチリの話題も1つゲットできたので、美味しい出来事でした。